高齢者の口腔管理
高齢者の口腔管理
高齢者の口腔管理の重要性
― 健康寿命を延ばすために必要なケアとは ―

高齢化が進む日本では、「長く健康に生活すること」が重要な課題となっています。それを実現するために重要な事が『口腔管理(お口の健康管理)』です。口腔内の健康は、単に「食べるため」「歯を残すため」だけではなく、全身の健康や生活の質(QOL)、さらには健康寿命にも深く関係しています。高齢になると身体機能が徐々に低下し、口腔内にも様々な変化が現れます。適切な口腔管理を継続することで、むし歯や歯周病だけでなく、誤嚥性肺炎や低栄養、フレイルの予防につながるため、日常的なケアと定期的な歯科受診が大切です。
唾液には、口腔内を洗浄する作用や、細菌の増殖を抑える作用があります。しかし加齢や服薬、副作用などによって唾液量が減少すると、口腔乾燥(ドライマウス)が起こりやすくなります。
歯の喪失や義歯の不適合、筋力低下により噛む力が低下すると、柔らかいものばかり食べるようになり、栄養バランスが崩れることがあります。
加齢により飲み込む機能が低下すると、食べ物や唾液が気道へ入りやすくなります。これを誤嚥(ごえん)と呼び、誤嚥性肺炎の原因になります。
手指の筋力低下や認知機能の変化により、十分な歯磨きが難しくなることがあります。その結果、口腔内細菌が増加しやすくなります。

誤嚥とは、食べ物や唾液などが食道ではなく気管に入り込んでしまうことを言います。
これは口から入った食べ物だけでなく、すでに食べたものや胃液が胃から逆流することによっても発症するため、胃ろうなど口から食事を摂ってない人にも起こります。
この誤嚥から起こる肺炎を、「誤嚥性肺炎」と言います。
高齢者の肺炎と聞くと誤嚥性肺炎を考えがちですが、嚥下機能が低下しているからといって、高齢者の肺炎が必ずしも誤嚥性肺炎であるとは限りません。
嚥下機能の低下した高齢者の場合、日常的に誤嚥が起こっています。
ただし誤嚥後に肺炎を発症するかどうかは、誤嚥した食べ物や唾液の量や、そこに含まれる細菌の種類などに対して、誤嚥したものを吐き出す力があるかどうか、さらには免疫力のバランスによって決まります。

口腔内の細菌が唾液や食物とともに気管へ入り込み、肺炎を引き起こします。
口腔内が不潔な状態では細菌数が増加するため、誤嚥時に肺炎リスクが高くなります。
定期的な口腔ケアによって口腔内細菌を減らすことは、誤嚥性肺炎予防に有効であると報告されています。
日常的な歯磨きや舌清掃、義歯清掃、専門的口腔ケアが重要になります。

噛みにくさや飲み込みづらさがあると、食事量が減少し、低栄養状態になりやすくなります。
低栄養は筋力低下や免疫力低下を招き、フレイル(虚弱)へ進行する可能性があります。
十分に噛める状態を維持し、口腔機能を保つことは、
につながります。

近年では、歯の喪失や咀嚼機能低下が、認知機能低下と関連する可能性も報告されています。しっかり噛むことは脳への刺激となり、認知機能維持にも重要と考えられています。
噛むことで歯根膜が押され、その刺激が歯髄の中の神経から脳へと伝わります。
認知症の代表疾患である、脳血管性の認知症に対しては脳卒中の予防になり、アルツハイマー型の認知症に対しては脳への刺激向上になり、歯周病予防や歯の喪失防止にも繋がります。
残存歯数と認知症の関係においても、残存歯数が多い程、認知症になりにくい統計結果も示唆されています。

歯周病は慢性的な炎症疾患であり、
など全身疾患との関連が指摘されています。
高齢者の口腔管理は全身管理の一部です。

「オーラルフレイル」とは、健康と機能障害の中間で、加齢による口腔機能の軽微な低下が積み重なった状態を指します。
高齢者のフレイルは、生活の質を落とすだけでなく、転倒や認知症・寝たきりなどの様々な合併症を引き起こす危険があります。
初期段階で対応することで、全身のフレイル進行を予防できる可能性があります。


一口30回を目安に、しっかり噛むように心掛けましょう。噛むことは、唾液分泌を促進し消化を促し、また顎の骨や筋肉が動くことで、血液の循環が良くなり、脳細胞の働きが活性化して、運動機能が向上し、結果として認知症やうつ予防に繋がります。また奥歯でしっかり噛みしめることは転倒予防にも繋がります。しっかり噛むためには、歯を抜けたままにしない事、入れ歯やインプラントでしっかり噛める状態を作ることがとても重要です。




歯や歯周組織の状態確認だけでなく、入れ歯の適合確認、口腔清掃状態の評価、口腔乾燥、舌や粘膜の異常、咀嚼・嚥下機能の確認などを行います。異常を早期に見つけて対応することで、食べる・話す・笑うといった日常生活の質(QOL)の維持につながります。
口の筋肉を自然に使えます。気持ちも明るくなり、身体にも良い影響があります。

ごはんなどの主食を基本に、肉や魚、卵、大豆などのたんぱく質主体の「主菜」。
野菜、きのこ、海藻などの「副菜」。
そして「汁物」を組み合わせたバランスの良い食事をとりましょう。
誤嚥事故を防ぐためには、足で床を踏ん張れる姿勢をとり、顎を引いて食べましょう。ベッドの場合でも近い状態にすることが大切です。顎を引き、背もたれがある椅子を使い、膝が90度に曲がる程度の高さに机を位置し、かかとが付く姿勢で、ゆっくり噛むことを意識して食事をしましょう。
毎食後または最低1日2回以上のブラッシングが推奨されます。
補助清掃器具(歯間ブラシ、フロス)も有効です。
特に根面のむし歯予防は高齢者にとって大切です。
歯周病によって露出してしまった根面は、本来は歯肉に覆われている場所なので外的刺激に弱く、くさび状の欠損になりやすかったり、虫歯になるリスクも高いのが特徴です。
根面むし歯予防にフッ素塗布を定期的に行い、フッ素によって、歯を強化し、再石灰化を促し、虫歯菌を抑えましょう。
舌苔は細菌の温床になります。
舌ブラシなどを用いて優しく清掃し、過度な刺激は避けます。

義歯には細菌や真菌が付着します。
適切な管理として、
が重要です。
合わない義歯は痛みや栄養障害につながります。
口腔乾燥には、
などが有効です。

歯科医院では日常ケアだけでは難しい専門管理を行います。
口腔体操や嚥下訓練によって機能維持を図ります。

高齢者本人だけで十分な口腔管理が難しい場合、家族や介護者の支援が必要です。
小さな変化への気付きが早期対応につながります。
高齢者の口腔管理は、歯や歯ぐきを守るだけでなく、誤嚥性肺炎予防、低栄養予防、フレイル対策、全身疾患管理、健康寿命延伸に深く関わっています。加齢による口腔機能低下は避けられませんが、適切なセルフケアと歯科医院での定期管理によって機能維持を目指すことが可能です。
「しっかり噛める」「安全に飲み込める」「楽しく会話できる」という口腔機能は、豊かな生活を支えるうえで大切な要素です。
年齢を重ねても健康的な生活を送るために、日頃から口腔管理に取り組み、定期的な歯科受診を継続していきましょう。
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